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建築様式で楽しむホテル

20世紀初頭、新大陸で花開いた近代建築の象徴。超高層建築の技術と富の集中が生み出した都市建築の美。

クライスラービルのタワー頂上部(ニューヨーク)。アールデコの代表的建物。

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「アールヌーボー」と「アールデコ」というのは、同じように「アール」が頭に付き、時代的にも近いので、一般には、これら二つはワンセットのような、姉妹様式のような捉えられ方(誤解)をされることもありますが、中身を仔細に眺めていただければおわかりのように、全く別種のスタイルです。

この「様式学入門」のアールヌーボー様式の説明のところで、「アールヌーボー様式は1900年のパリ万博を支配するかたちとなります」と、コメントしました。それはまぎれもない事実でありましたが、実は(歴史にはありがちなことですが)最盛期がそのまま急速な没落の始まりでもあったのです。

以前、このシリーズのバロック様式の解説では、こんなことを書いています。「反動—アクションに対するリアクション、改革派に対する守旧派(抵抗勢力?)。共和制に対する王政復古、そして宗教改革に対する反宗教改革」・・・人類の歴史の中で、このようなことが幾度となく繰り返されています。

建築史家鈴木博之は、アールヌーボーを「一見どれほど華麗で豊穣なものであろうとも、人工の神話、自作の神話めいた謎であった。ちょうど、孤独な演技者であるダンディのように、アールヌーボーの装飾は一部のスキもなく表面性を身にまとっていた。だが、アールヌーボーの装飾の内側は、文字どおり空洞であったのである」とコメントしています。

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また、アールヌーボーがヨーロッパ全土を席捲したかに見えた1890年代には、実はかつて同じように「官能的、享楽的」と評されたロココ様式がまだまだ一般の市民の間では支持されており、皮相的、軽薄的に見えた「新芸術(=アールヌーボー)」に対しては、“この新参者が!”という根強い反発もあったと言われています。

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このような時代背景の中、1925年、第一次大戦(1914〜18)によって延期されていた装飾美術(アールデコ)エキスポが、パリで開催されます(「1900年様式」と言われるアールヌーボーから四半世紀、この博覧会で集中的に花開くアールデコ様式は「1925年様式」の別名があります)。

この時期、パリはアールデコの都になったはずでしたが、実はパリではそれほど盛んになりませんでした。この様式も、「新参者」で、どちらかといえば「皮相的軽薄的」であることにおいてはアールヌーボーと同じ弱点を持っていたことは間違いありません。

アールデコ様式が大々的に花開いたのは、独立から100年を経て超大国への道を歩み始めた新大陸、アメリカ合衆国においてでありました。

歴史的な約束事のしがらみにとらわれることなく、自由に革新的な新様式を大規模に実験することを許されていた時と場所、20紀初頭(最初の四半世紀)の(1)ニューヨーク・マンハッタンはその代表です。超高層ビルを建てる技術が確立し、富が集中し始め、新時代の都市整備が大がかりにスタートした場所です。

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これらの地域を2大集中地区としてアールデコは大々的に花開きます。この時代のアメリカを代表する超高層オフィスビルとリゾートのホテル群を代表として、事務所建築、商業建築の大きなトレンドとなります。

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植物パターンのたおやかな自由曲線のモチーフで構成されたアールヌーボーに対して、アールデコは、定規で引いたような直線(一点から発する放射線)、コンパスで画いたような円や円弧、それらの連続模様である波模様、イナズマ模様、流線型モチーフ、といったいずれも幾何学模様に特徴があります。

さらに、その様式に固有のロゴ(フォント)も、建築様式や小物の装飾様式とあいまって、様式を側面から特徴づけています。

左の二つがアールデコのロゴ、右の一つは比較対照用に用意したアールヌーボーのロゴです。これだけ見ても、アールヌーボーとアールデコのデザインの特色を十分に想像することができる気がしませんか?

(左)アールデコのフォント例〜 直線的で幾何学的 〜
(右)アールヌーボーフォント例〜曲線的〜

アールデコ様式の実例

それでは建築の具体例でアールデコをトレースしてみましょう。

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クライスラービル

1930年竣工。77階建て、高さ319m。エンパイアステートビルと並び称される超高層オフィスの古典です。建物の内外にアールデコのモチーフが盛り込まれ、自動車メーカーのビルらしく、車の部品をデフォルメしたデザイン要素が特徴です。

ロックフェラーセンター

クリスマスツリーと地下広場の冬のスケートリンクでも有名な21のオフィスからなる一大ビジネスセンターです。最大のビルは70階建て、259mのGEビル。
各オフィスの、低層部の外壁や、内部ホールの壁面にアールデコの装飾が設けられています。

エンパイアステートビル

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20世紀前半、1920年代になって米東海岸の人口集中地区と高速道路でつながったフロリダ半島の先端、亜熱帯のマイアミビーチ。実はハワイのワイキキと同じ、白砂を遠くから運んできた人工海浜ですが「雨後の竹の子」のようにリゾートホテルが立ち並ぶ時代を迎えます。

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トロピカルデコの最大の特徴は、パステルカラーの華やかな彩色です。パステルピンク、パステルブルー、パステルイエロー、ラベンダー・・・これらがアールデコの装飾要素を彩って強烈な印象を与えてくれます(専門的な注釈としては、このパステルトーンによる各ホテルの本格的修復は80年代のものです)。

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アールデコの事例の二本柱は、オフィスビルとホテル建築でした。ですから、ホテルの事例は、ここに紹介しきれないほどたくさんあります。ここではそんな中から出来るだけ典型的な例をお目にかけてまいりましょう。

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The Georgian Hotel (Santa Monica, U.S.A.)

ロサンゼルス国際空港から約13km、サンタモニカの中心部に建つホテル。ウオーターフロントという立地条件から、マイアミのアールデコ地区を彷彿とされるスタイルが違和感なく感じられます。

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Hotel Breakwater South Beach (Miami Beach, U.S.A.)

ファサードの造形、パステルトーンを強調したライトアップ。トロピカルデコの典型の一つといえます。

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構成・制作監修
長持

建築家・東海大学講師。学生時代のヨーロッパ一人旅5週間以来、旅にはまる。世界の終着駅建築、庭園、公共交通機関(とりわけ新世代高性能路面電車LRT)に格別の興味をもっている。著書は世界35の街を描いたエッセイ『街はいつでも上機嫌』(静岡新聞社)ほか。